Cartolina カルトリーナ はイタリア語で「絵葉書」。旅先から送る絵葉書のように、
イタリアを始めとするヨーロッパの暮らしに息づくスタイルやライフシーンをお届けします。
私たちはヨーロッパ製造のフローリングを輸入し販売しています。なかでも環境問題解決の先進国であるフィンランドのメーカーの取り組みを通じて、フローリングとSDGsの関係をご説明します。
フィンランドは世界幸福度ランキングにおいて2018年から連続して第一位を獲得しています(2023年時点)。その根源にあるものは自然を愛する心にあるように思います。、気候変動を遅らせる意識は日常生活から高く、世界に先駆けて1990年に炭素税が導入され、2035年までにカーボンニュートラルを実現する目標を定めています。EUが掲げる2050年という目標に比べて、その先進性がうかがえます。カーボンフットプリント(製品製造から廃棄にかかわるCO2排出量)削減だけでなく、カーボンハンドプリント(製品が気候に与えるプラスの影響)を併せて最大限活用して気候変動の緩和を目指しています。
気候変動対策の根本にあるのは、適切に機能する生態系を取り戻し守ることが、経済にも生活にも利益をもたらすという考え方です。産業革命以降、化石燃料によって得たエネルギーで、金属の精製、石油を精製したプラスチックや化学薬品を得てきた従来の生産及び消費の価値観。それがもたらした気候変動に、新たな持続可能性という価値観で解決をすることは、イノベーションというビジネスチャンスであり、生活者もそれを支持することで気候変動対策に参加し、ウェルビーイングを向上する利益を得るということです。フィンランドでは多くの会社が自社製品のLCA(ライフサイクルアセスメント)を公開しています。これは、製品の資源採取、生産、使用、廃棄まで全ての行程で排出されるCO2 の合計を数値化した資料です。これによって、品質や価格と同じように、気候変動対策は生活者の商品選択の大きな決定要素となっています。
天然資源を材料として生産し商品を廃棄する今までの直線経済から、材料をできる限り循環し続けるように生産消費を行うことを目指すのが循環経済です。リサイクルが主眼ではなく、天然資源採取の量および廃棄物の量自体を最小限にすることが大事です。天然資源というと製品の素材(フローリングでいえば木)を思い浮かべますが、生産に必要な電気や熱エネルギーを生み出す化石燃料などの天然資源を削減することがCO2排出削減に大きく貢献します。フィンランドは2019年に石炭を禁止することを決定し、2029年5月から石炭火力による発電と熱生産を禁止します。生産活動に不可欠な電気をグリーンエネルギー(再生可能なエネルギー)に転換する取り組みは、特に製造業においてすでに常識となっています。地球の他の地域より急激に温暖化が進んでいる北極圏を領土にもつフィンランドでは、気候変動対策が自分ごととして生活に根ざしています。
湖を抱えるラハティ市は、経済成長期の湖への排水汚染の対策に取り組み、住民の積極的な参加もあり、2021年に欧州グリーン首都に選ばれました。2019年に石炭の使用を中止し、地域暖房は現在では排出ガスのない状態になっています。
フローリングが関連する産業分野は建築です。建築物と建設工事は全世界の温室効果ガス排出量の39%を占めていると言われています。なかでも建築物(その中で使用する光・熱エネルギーを含む)は全体の30%を占めています。寒冷地のフィンランドでは1年の大半で暖房を使用します。そのため熱効率の高い建築技術は最高水準にあります。必要なエネルギーをグリーンエネルギーに転換するとともに、建物のライフサイクルにわたって循環経済型の取り組みを目指しています。構造は耐久性に優れ、パーツの解体回収が容易なもの。材料は再生可能でCO2を固定している木材や、鋼鉄やレンガなどのリサイクル可能なものを使う。そして、解体された建物から資源を回収し、廃棄物を出さないことが目標とされています。
気候変動対策の意識が高いフィンランドのフローリングメーカーであるTimberwise Oy(ティンバーワイズ社)では、サステナブル開発マネージャーの元、持続可能な生産活動を構築し、LCAを発行しています。1999年の創業から、植林認証材、人体に無害な接着剤や塗料を使った健康に配慮した製品を作ってきました。日本のF☆☆☆☆(フォースター)認定、フィンランド喘息防止協会認定を取得しており、製品の使用中に少なくとも有害物質が空気、水、地面に放出されません。その変わらぬ姿勢は、今求められているSDGsにも活かされています。具体的な対策として以下の成果があります。
木材乾燥のための熱源に、製造時に出た廃材のバイオマス燃料を使用する。
製造に必要な電力をソーラー発電とグリーンエネルギーでまかなう。
人体に無害な接着剤と揮発溶剤を使わないUV塗料を使い工場で働く人の健康を守る。
広葉樹を効率よく使うための、無垢材に合板を貼った複合フローリング。
自国内の木材だけ使用して輸送時のCO2排出量を削減。
ティンバーワイズ社の工場
2023年4月に発行されたLCAの概要を紹介します。
対象はオーク複合フローリング。構造は、表面材:オーク3.5mm、基材:バーチ合板9 mm、底板:スプルース2 mm、重さ:約10 kg/m2です。このフローリングの1 m2分のライフサイクルにおけるCO2排出量が計算されています。
求められた値は、5.32 kg CO2 eq/m2です。内訳は下図の通りです。
<それぞれのフェーズでの対象項目>
原材料の生産:
森林作業や製材。燃料や接着剤の生産など。原材料 (広葉樹、ベニヤ、合板) の収穫と加工。
工場への原材料の輸送:
自国のバーチの丸太の調達から合板への製造。自国の針葉樹の丸太を調達し、突き板に加工。オークの丸太とそれから製材された木材の調達。それぞれのトラックでの輸送にかかる燃料。
生産工程における電力消費:
表面材を鋸で短冊状に切断。乾燥。厚さの調整と選別。ベニヤ、合板、表面材の接着。プレス。鋸引き。パテ貼り。表面塗装。仕上げ。梱包。
製品輸送:
ヨーロッパの平均的な顧客への輸送。
施工時の廃棄:
施工業者や消費者が設置施工する際の作業と端材の破棄。
使用後の廃棄:(耐用年数が終了した段階において想定されるシナリオに基づく計算)
建設資材がエネルギー廃棄物として現場で分別される際に焼却される。(木材製品はチップ化され、発電所でバイオ燃料になる)
再設置やリサイクルによる再生製品化。
埋め立て後のメタン吸収。
全ての場合において50kmの移動の消費燃料が含まれる。
<フローリングの耐用年数>
基準耐用年数は、フローリングが適切に設置および保守されている場合、建物の耐用年数と同じであるため、デフォルトの基準耐用年数は 40 年です。建物の解体とともに終わるという設定ですが、製品自体は木材なので、乾燥した状態および適度な湿度の状態では100年を超える耐用年数があると考えられます。
<フローリングのCO2貯蔵量>
ティンバーワイズのフローリングは表面材も基材も木材です。樹木は成長の過程でCO2を取り込み、光合成でC(炭素)とO2(酸素)に分解し、Cを固定し、O2を放出しています。木材の乾燥重量の約半分はC(炭素)です。ティンバーワイズのフローリング1m2の炭素含有量は約 4 kg C/m2です。CO2量に換算すると約14 kg CO2/m2となります。ライフサイクルにわたって、製品に大気中の約14 kg CO2/m2のCO2を貯蔵していることになります。木の伐採後も植林されて持続性のある森林から原料の木材を調達することで、その効果は持続されることになります。伐採後植林されない森からの木材を使わず、植林認証材を使用することが必要になります。
<まとめ>
ティンバーワイズのフローリング1m2のライフサイクルにおけるCO2排出量は5.32 kg CO2 eq/m2です。製品中の再生可能素材の割合は 96 % です。
例えば、ヨーロッパで一般的に普及しているラミネートフロア(高密度木質繊維板の上に木目を印刷したフィルムと人工樹脂のシートを接着したもの)のCO2排出量は19.73 kg CO2 eq/m2です。消費者が製品選択の際にラミネートフロアではなくティンバーワイズのフローリングを選択すると、14.40 kg CO2 eq/m2のカーボンハンドプリントに貢献することになります。
参考文献
「フィンランド気候変動への取り組み」発行:2021年、フィンランド外務省。駐日フィンランド大使館広報部(2022年、編集)https://toolbox.finland.fi/wp-content/uploads/sites/2/2022/01/finfo_climate_ja.pdf