Cartolina カルトリーナ はイタリア語で「絵葉書」。旅先から送る絵葉書のように、
イタリアを始めとするヨーロッパの暮らしに息づくスタイルやライフシーンをお届けします。
ライフスタイルというと個人の趣味趣向ととらえがちですが、生活様式と訳すと違うとらえ方ができます。その土地の持つ気候や食生活、歴史、文化が生活の様式の本質をかたちづくっています。この観点から日本の暮らしに合ったフローリングを考えてみます。
登呂遺跡など弥生時代の遺跡で、竪穴式住居と高床式の穀物倉が復元されており見ることができます。倉はコメを湿気とネズミから守るため、板床が地面から持ち上げられています。高床は断熱性が無いので、住居の床は外気の影響を受けにくい掘り下げた土間でした。中世から江戸時代にかけて、農村部の庶民は土間にムシロが続きますが、上層階級は、高床式のように、束で地面から持ち上げられた板床で暮らします。断熱のために畳が組み合わせられました。また、都市部では、京の町屋や江戸の商家のように土間と高床の板床の組み合わせで、庶民の長屋にも一部板床が設けられました。特に夏場の高温多湿の対策として、地面から持ち上げられた木の床は、自然環境由来の日本の必然の床様式です。床下に空気を流すため、30㎝以上持ち上げられた床高は、物理的に土間と板床を隔て、履物を脱いで上がることは必然でした。
土間から30cm以上持ち上げられた板床。
明治に入り、洋館が建てられ、官庁や商業施設などで板床の上を土足で歩くようになります。明治中期から洋風木造で建てられた学校では、板床ですが、入り口の広めの土間で履物を脱ぎ、裸足で上がっていました。今の上履きへと繋がります。上層階級の個人邸でも、椅子座の食事室と書斎を中心に板床が取り入れられますが、客間など畳部屋も共存するため、玄関で靴を脱ぐ習慣は廃れませんでした。
住宅の洋風化が進んでも玄関で靴を脱ぐ習慣は残りました。
第二次世界大戦後、破壊された都市部の再建と、多くの復員者の住居供給が急務になり、1950年代に国や自治体による賃貸集合住宅(団地と呼ばれる)が多く供給されました。この間取りとして、キッチンと食事室を合わせて板の間にしたDKが登場しました。当初は無垢や集成材のフローリングでした。高度経済成長期に化学産業が進み、水回りにはビニールの床材、居室は畳から、カーペットや複合フローリングが使われるようになります。
国は団地建設とともに金融公庫による持ち家支援をおこない、郊外の戸建て住宅にもビニールのクッションフロアやカーペットが床材として使われました。1990年代にハウスダスト等によるアレルギー問題(シックハウス)が顕在化し、ダニがつきやすいカーペットよりも、フローリングへの支持が高まります。本物志向のライフスタイル変化もあり、床材の主流がフローリングへと変化しました。
東日本大震災をきっかけに、ライフスタイルが「物の選択の嗜好」から、本来の「暮らし方の志向」へと変化しました。住宅に関しても、流行の商品として与えられるのではなく、暮らし方から発想して探すものへと変わりつつあります。住宅に求められるようになった最大の変化は「省エネルギー」です。消費エネルギーを抑えるための構造や設備を備えた「エコハウス」、エコハウスを効率よく住み手が制御できる「スマートハウス」という生活にかかわる省エネルギー。そして、世帯数を大きく上回るストック住宅社会において、スクラップアンドビルドの資材とエネルギーの消費から、リノベーションやコンバージョンによる、生産にかかわる省エネルギーが求められています。
太陽光など自然熱エネルギーの効率利用をめざす「パッシブハウス」においても、外気の断熱と高気密性がエコハウスの前提となります。室内環境を制御するために外気と切り離されることが必要だからです。しかし、24時間換気システムが義務付けられているので、外気の影響は受けます。熱交換システムにより温度は調整してとりこめますが、湿度のコントロールは難しく、夏は多湿、冬は過乾燥の室内環境は変わりません。
温度のコントロールで通年快適に過ごしていますが、湿度はおよそ夏70%、冬30%と開きがあります。特に冬の乾燥は自然素材の木であるフローリングに影響を与えます。無垢や3層フローリングは乾燥による収縮で目地が開いたり、木目にそった割れなどがおきやすく、表面がオイルやワックスで仕上げてある場合、乾燥した手にハンドクリームを塗るように、まめな再塗布が必要です。
私たちがヨーロッパ産の2層複合フローリングを日本に輸入している理由がここにあります。乾燥したヨーロッパの環境下で研究され評価を伴って使い続けられている、厚挽板と合板の構造とUV硬化塗装で仕上げられたメンテフリーのフローリングは、乾燥した日本の室内環境にも適しているからです。 そして裸足で板床を歩く伝統を持つ日本人にとって、多湿の夏にも快適な足ざわりをもたらすからです。